2007年1月号 第5回 子どもたちに輝かしい未来への夢を

この記事は時事通信社出版局発行「教員養成セミナー」に連載しているコラムです。

先日シンガポールの牧師からこんな話を聞いた。高校生になる彼の娘が、一時成績がひどく落ち込み、学校からこのままでは退学になるとまで言われた。そこで牧師は娘に「君は将来どんな仕事をしたいんだい」と尋ねた。彼女はしばらく考えた後「・・・会計士」と答えた。「それは素晴らしい仕事だねえ」と、その仕事がどれほどやりがいのある、多くの人を助ける仕事か話をした後、「ところでその会計士になるためにはどういう勉強が必要なんだい」と尋ねた。それをきっかけにじっくりと彼女自身の将来の夢を引き出すことができた。その後どうなったかと言うと、以来彼女はめきめきと成績を上げ、数学は学校で一番になったそうだ。少々出来すぎた話の感もあるが、将来の夢・ビジョンというものが、どれほど若い魂を突き動かすエネルギーとなるかという良い例だと思う。

想像力は、あらゆる動物の中で人間だけに与えられた偉大な能力の一つだ。人間だけが、見たこともない異国の地を想像し、経験したことのない将来を想像し、未来の自分や世界を想像する。だから人間は、その想像力を十分に駆使して、大きなビジョンを持って未来を切り開いていくことを期待されるのである。キング牧師は「私には夢がある」と語り、黒人差別が激しかった社会の中で、誰も信じることができなかったビジョンを実現させた。

聖書には「幻(ビジョン)がなければ人は迷ってしまう」という意味の言葉がある。ビジョンは人に指針や動機を与えるものだ。もしそれがなければ、今自分がしていることに意味を見出せないし、どこに進んでいいのかも分からないということだ。

今この国の子供たちは目先の成績や進路、狭い人間関係だけに目を奪われ、将来に夢を持つことが難しくなっているように見える。彼らが自分たちの輝かしい未来を思い描き、大きなビジョンを持ち、困難にも挑戦していけるように励ましてゆくことが、教師や親たちや、社会全体の責任であるように思う。


  2007年1月号掲載

2016年11月01日